夏の葬列
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夏の葬列
サイトで公開していたヨハンと十代の短文をこっちに移しました。
つづきでどうぞ。
つづきでどうぞ。
***
風が吹き抜けて、空気が、匂いが、温度が変わる。
その感覚にハッとして振り返ると、今までいた場所とは全く違う風景の中にいた。
溢れるばかりの緑の中に青色の髪がフワリと躍る。
「なんだお前また来ちまったのか… もう来るなって言っただろう。 どうやったって一緒にいることは出来ないんだ。」
溶け込むことのない青い髪が懐かしくて懐かしくて、何を言われているのかなんて考えもせずに手を伸ばす。
触れられると思ったのにそれが出来ない。
あるはずのものが、あるはずのぬくもりがそこにない。
普段だったら絶対に感じることのない感覚に背筋がゾッとした。
「だから触れられないって前にも言ったじゃないか。」
前??前とはいつだったか??
彼と出会った時??彼と一日中一緒にいたあの時??彼がいなくなったとき???それとも、それとも…
「お前も学習しないなぁ。そろそろここに来るのにも懲りたらどうだ?俺はもういないんだから。」
「もういない」その言葉意味がわからない。
もういない。もういない。もういないとはなんだ。一体何を言っているのか理解ができない。
「ほら、呆けた顔するなよ。しっかり前を見るんだ。お前の道はあっちだ。お前の帰る世界はあっち。大丈夫皆がいるから。さぁ行けよ。」
その言葉に今まで霞んでいた頭が体が心が動き出す。
「いやだ!!帰りたくなんかない。ここにいたい。帰る世界なんて!!そんなの…そんなの!!!おれの帰る場所はひとつしかない!
そんなこと、お前が一番わかってるじゃないか!!」
頬に涙がつたって、呼吸が乱れて、体が熱い。
こいつだけにはそんなこと言われたくなかった。帰れだなんて。
おれを正面から見据えるあいつの瞳は揺るがない。
どうして…そんな顔ができるんだ…
どうして縋ってくれないんだ。まるでもうおれがいなくたって一人だっていれるみたいなそんな顔…
「タイムリミットだよ、十代。もう時間だ。お前はここには留まれない。」
「なっ いやだ!きっとなにか ほ う ほ う が 」
酷いめまいと嘔吐感。ぐらぐらと足元が揺れて揺れて揺れて揺れて
いやだと思いながらも体がここにとどまる事を良しとしない。
最後に見えた緑の瞳が寂しそうに笑っていた。
前触れもなく目が覚めた。
ぐったりとした汗だくの体に力が入らない。
なんとか体を起こし、朦朧とした意識のままベンチの背もたれに体を預ける。
元の通り。なにもかも。
暑さで人っ子一人いない、なんの変哲もない公園に蝉の鳴き声だけがうるさく響く。
さっきまでのことがまるで夢のようだ。
でも彼は知っている。あれは夢なんかじゃないことを。
もう来るなとあいつは言ったがきっとまた会う事になるのだろう。
だって夏は毎年巡ってくるのだから。
「ヨハン…」
そう呟いて無理やり体を起こし重い体を引きずって公園を後にする。
彼の墓に花を添えに行くために。
***
緑の中で揺れる青い髪はポツリと呟く
「さよならだ…さよならするんだよ十代…」
頬につたう冷たい涙は温度を持っていなくたってきっと彼と同じだ
まだ忘れずにいてくれた。
そのことに安堵しながらも、そんな自分が許せないとも思う。
あと何度彼ここに来てくれるのだろう…??
彼がここに来る限りヨハンもここを動けない。
「十代…」
呟いた名前が溜息と共に風に消えた。
了
夏の葬列
(2013/05/17)
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